アドラー心理学で性格は変わるのか

そもそも「性格」とは何か・アドラー心理学の考え方

アドラー心理学では私たちが通常「性格」と言っていることに対して、「ライフスタイル(Lebensstil)」という言葉を使っています。「性格」というと、変えられない・変えにくい、というイメージを受けますが、「ライフスタイル」というと、部屋の模様替えのように変えようと思えば変えられるもの、という印象を持つかと思います。その印象の通り、アドラー心理学では、ライフスタイル、つまり性格は変えられるものとしています。

このライフスタイルは、私たちが成長する過程で身につけてきたサバイバルスキルのようなものです。自分の存在価値を感じ、共同体(家族等)の中で受け入れられ、安心して生きていくにはどうしたらいいか、試行錯誤しながら学んできた効果的な行動・思考パターン、と言っても良いかも知れません。私たちが最初に入る共同体は通常の場合家族ですから、最初は家族の中の立場(生まれた順)や家庭環境が、その後はその他の共同体環境(学校など)がライフスタイルを形づけ、私たちは10歳から思春期を終えるころまでに自分のライフスタイルを確立させると考えられています。

怒りを爆発させることで周囲を慌てさせ、自分の意思を通したり注目を浴びることに成功してきた人は、自分を守るために怒りを使うことが多くなりますし、自分の殻に閉じこもり周りを心配させることで自分の存在価値を確認してきた人は、問題があると黙り込んだり、あからさまに悲しそうな様子をアピールすることが多くなります。

そんな自分の性格を「嫌いだ」「変えたい」と強く思う方も多いのですが、私は、今のライフスタイルは、自分が自分を守り育てるために、一生懸命作り上げてきた自分への愛の集大成であって、決して馬鹿にしたり、忌み嫌ったりするものではないと思っています。自分の性格が「嫌い」という場合は、「性格が悪いのではなく、今の自分に合わなくなったのだ」と考えた方がよいと思ってます。

性格(ライフスタイル)は変えられる

このようにして、自分で築き上げてきたライフスタイルですが、今の自分・自分が所属している共同体にとって非建設的(不便)だと感じれば、選びなおせばよい、とアドラーは説いています。ライフスタイルは変えられない自分の資質ではなく、選択できるもの、ということですね。

例えば、私の場合、最初の4年間は一人っ子として育ちましたが、その後は「お姉ちゃん」になりました。妹が生まれて親の注目が一気に彼女に向けられたのを今でも覚えています。親の注目をひくためには、「いいお姉ちゃんアピール」をするのが一番だったのでしょう、今から思えば、手のかからないい子でいること、学校に上がってからは優等生でいることにエネルギーを注いでいました。いい子でいれば褒められましたし、通知表が良ければ家族の注目の的になれましたので、結果的に強い完璧主義を使って承認要求を満たすようになり、それが私のライフスタイルになりました。上にも書きましたが、今から思えば、自分は完璧主義に徹することで必死に自分を守ってきたのだなあと思います。よく頑張ったと思います。読者のみなさんの場合はどうでしょうか。

そんな完璧主義の私でしたが、完璧主義・成績(成果)至上主義が娘と自分の心を壊しかけていることに気づいてから、アドラー心理学(と、マインドフルネス)を使い、ライフスタイルをかなり変えることができました(マインドフルネスをどのように使ったかは、別の記事にしようと思います)。

今まで自分を守ってきてくれたライフスタイル、それが今は自分・他者を苦しめている。このことを心の底から理解しできた時、ライフスタイルを変える勇気が生まれてきます。ライフスタイルは、自分の意思でアップデートできるものなのです。

「性格は変えられない」と思うのはなぜか

ライフスタイルは変えることはできますが、簡単に変わるのものではありません。上にも書いたように、今自分が使っている(選んでいる)ライフスタイルは、自分の長年の成功体験の積み重ねなので、手放すのが怖いからです。過去の成功メソッドは今、成功体験につながっていないのに、代替を持たないままに手放すのが怖いのです。今まで自分をしっかりと守ってきた鎧。それが今、どんなに重く、きつく、着ているのが苦しくても、それを脱いで防具無しで立つことは、とても勇気がいることですから。

私も完璧主義を手放すには強い抵抗がありました。娘が赤点を取ってきても、叱責して原因を問いただし、さらに努力を強いる代わりに、「そうか、今回は残念だったね。次はきっと大丈夫だよ」と優しく言う。娘が泣いていれば、ああだこうだと勉強方法を指南するのではなく、ただ抱きしめる。私の目から見て勉強時間が足りていないと思えても、「自分なりに努力しているね。いつか結果につながるよ」と娘のペースを尊重する。多くのお母さんにとっては当たり前のことでしょうが、私にとってはとても怖い方向転換でした。

「うまくいくかどうかわからないけれど、やってみる」ということは、怖いことです。今までの自分の成功パターンと逆のことを考え、言葉に出す度に、「そんなことで本当に大丈夫なのか」という古いライフスタイルの声がして、その度に不安になる。そして、その不安に負ける時、私たちは古い、役に立たないライフスタイルに頼ってしまう。だから「性格がなかなか変わらない」という結果になるのです。

また、「性格を変えたい」と言いながら「変えられない」と言っている場合は、「実は今のライフスタイルでもそれほど困っていない」こともあります。鎧を脱ぎたいといいつつも、「着ていてもそれほど不便でない」と心のどこかで思っていると、今のライフスタイルを引き続き選び取ることになります。

どうしたら性格を変えられるのか

私の経験から言って、大切なポイントは2つあります。

1つ目は、「変えるのだ」という決意。自分のライフスタイルがどれほど自分と他者を苦しめているか心から理解し、「変えよう」と決めることです。私の場合、娘が激しい過呼吸発作を起こすのを目の当たりにして、強烈な危機感を感じました。今のままでは娘が壊れる、そして娘を壊した私は一生悔やんで生きることになるのだーそれが本当に理解できた時、本気でライフスタイルと向き合う決心ができました。あの時のあの場面は、今でも私の決意を新たにしてくれています。

2つ目は、「勇気」を持つこと。アドラー心理学の「勇気」は、困難を乗り越える力のことです。上にも書きましたように、今まで着ていた鎧を脱いだ時の不安・恐れに一つ一つ向き合って、少しずつ舵を切る方向を変えていくには勇気がいります。今日は怒鳴る言葉が少なかった、今日は少しだけど言葉を選べた…そんな小さな進歩でも、自分の努力をひたむきに認めていく作業は、勇気があってこそ続けることができます。どんな時も自分を見捨てず、あきらめず、失敗してもそこから新たな一歩を踏み出す力を持ち、ゆっくりゆっくり、舵を切っていけばよいのです。

「勇気」についてはこちらの記事もご参照ください:

アドラー心理学の「勇気」とは?

常に自分を勇気づけることと同じく、人から勇気づけてもらうことも大切です。悩みが尽きない時、不安に負けそうな時、自分を支えてくれる人に頼ることで、自分の勇気の電池を満たすことができます。一人で抱えないで、周りの人の理解・優しさを受け取りましょう。私も、同じくアドラー心理学を学ぶ仲間に支えてもらっています。

ライフスタイルは変えることがができます。その全部を変えることができなくても、その一部が和らぐだけでも、ずっと生きやすくなります。長い道のりになるかも知れませんが、鎧を脱いで、今の自分にぴったりの服を探して着替えることは、誰にとっても可能なのです。その際、古い鎧を邪魔者扱いせず、自分をひたすら守ってきてくれた、かけがえのない宝のように思ってくださいね。