マインドフルネスを使った、困難を乗り越える「2つの視点」

カメラワークを切り替えて人生を見る

何をやっても順風満帆、人生のすべての分野でトラブルはいつもゼロ、という人はいません。人生には困難はつきものです。人間という生き物は、そんな人生の困難をひとつづつ乗り越えながら、自分を知り、成長していくものだと思います。

そうは言っても、失敗が続く時、努力を積んでも結果につながらない時、想定外の苦難に見舞われた時、やることが山積みで、どこから手を付けていいかわからない時などは、すべてを投げ出してしまいたくなりますよね。私も、「なぜ私だけがこんなに苦しむんだろう」「もう消えてなくなってしまいたい」と思ったことが何度もありました。それでも今まで生きてくることができ、これからも生きていく勇気を持つことができるようになったのは、必要に応じて、人生を「2つの視点」から見れるようになったからでした。

2つの視点というのは、2種類にカメラワークのようなものです。一つ目の視点は、「今ここ」にフォーカスして、あえて先を見ない見方。カメラワークで言えば、ぐっと寄せてきて、ズームインしている状態です。もう一つの視点は、人生全体を大きく、ゆったりを見る味方。ワイドアングルというのでしょうか、カメラをぐんと引いて、全体を俯瞰するものです。

私はこの2つの視点をうまく切り替えながら、つらい時期を乗り越えています。

先を見ず、「今ここ」にフォーカスする

この見方は、タスクが山積みになっていたり、高い壁を乗り越えるのにたくさんの努力が必要な時に使っています。作業量が多い時、最終目標地点までの道のりが長い時は、その量や距離を考えただけで気持ちが沈んだり、自信がなくなったりしますよね。そういう時こそ、足元だけを見ます。先のことは考えず、「今ここ」で自分ができることを丁寧に、着実にこなしていくのです。「あれも、これも」と気が散りそうになっても、一つのことに集中し、黙々と、淡々と、やるべきことをやっていきます。

マインドフルネス瞑想では、呼吸や身体感覚等を集中対象として、意識を今ここに集中させるトレーニングをします。実践を積んでいけば、焦る心があちらこちらとさまよい始めた時、それに気づき、目の前のタスクに意識を戻すことができるようになります。

長い長い坂を上っていく時や登山など、急こう配でも、足元だけを見て一歩一歩進んでいくうちに、気がついたら登り切っていた、ということがあります。それと同じで、先を見て道のりの長さや勾配の急さに怖気づいたりせずに、今できることをやっていきます。

足元は見ず、全体を俯瞰する

1.とは全く逆の視点を使うのは、今の状況がとてもつらく、苦しい時です。努力はしているのに結果がなかなか出ない、思うようにことが進まない、想定外の難問と向き合っている、そんな時は、今まで生きてきた人生と、これから続く(であろう)人生を合わせ、人生全体を眺めるようにしています。

過去を振り返ってみれば、自分は困難を乗り越えてきたことに気づきます。そして、そんな困難が自分を成長させてくれたことも思い出すことができます。今向き合っている困難も、また過ぎ去っていくに違いない。振り返って、「あの時は大変だったけど、いい経験だった」と言える日が来るに違いない。そう考えてみます。

そもそも、この世の中に永遠に変わらないものなど、一つもありません。すべてが移り変わっていきます。このことは、マインドフルネス瞑想の中でも俯瞰する瞑想(ヴィパッサナ瞑想)を実践すると、体感できるものです。瞑想実践が深まるにつれ、どんな思考、感情も、身体感覚も、現れたらその内容や強さ、質を変えながらいずれは消えていくことが腑に落ちるのです。

一方で、まだ見えない将来は、真っ白な画用紙ですね。今日できないことが、明日は(少しだけでも)できるようになっているかもしれない。今日の苦しみが、明日は少し軽くなっているかもしれない。明日のことは、誰にもわかりません。明日のことを思い煩っていることに気づいたら、意識を今ここに戻して不要な心配をしないことも、マインドフルネスを使った未来への向き合い方です。

それに、長い人生を考えてみたら、もし失敗したとしてもしたことじゃない。これはアドラー心理学考え方ですが、「失敗は成長の糧」。倒れたら、また立ち上がればいいだけです。「死ぬこと以外はかすり傷」という言葉を聞いたことがありますが、本当にそう思います。生きていれば、何度でもやり直せるのですから。

苦しい時こそ、休みましょう

「そうは言っても、視点の切り替えができないから苦労しているんだよ!」とおっしゃる読者もおられると思います。確かに、苦しい時ほど視界は狭く固定されてしまい、視点を変えるのが難しくなります。疑心暗鬼になったり、強い不安や焦燥感、ひどい時は絶望感を感じるのもそんな時です。

そういう時は、心も体も休めてください。早く寝る、気の置けない友達と話す、家族と穏やかな時間を過ごす等、できる範囲で心身のリフレッシュを心がけましょう。固まった心を身体と一緒に緩めることで、視点を変える余裕が生まれます。苦しい時、やることが山積みな時こそ、休み、緩めるのが大切です。張り詰めた糸はいつか切れてしまいます。前に進むためには、一度立ち止まることも必要なのです。