自分で自分の幸せを減らしていない?「今ここ」を放置する「無自覚」の危険

自分の言動、自覚していますか?

刑事ドラマなどで「あなたがやったんですよね?」と問い詰められた容疑者が、「いえ、私には身に覚えがありません!」と返す場面、よくありますよね。この「身に覚えがない」という感覚ですが、ドラマを見ていると「そんなことあり得ないよ、自分でやってることなんだし」と思うものですが、実は我々、かなりの頻度でこの「身に覚えのないこと」をやっています。

例えば、お風呂に入ってふと「あれ、シャンプー済んだっけ?」、家を出て車のエンジンをかけてふと「あれ、家のカギ、閉めたっけ?」と思う時が、まさにそれです。実際にシャンプーをしてるのに、しっかりカギをかけているのに、シャンプーしたこと、カギをかけたことは「身に覚えがない」。あなたにも経験ありませんか?

実はこの「身に覚えがない状態」が「マインドフルネスの逆」の状態。つまり頭の中の世界にどっぷりと入り込み、意識が「今ここ」に向いておらず、結果的に自分の言動が自覚できていない状態です。

マインドフルネス・ストレス低減法8週間プログラム(Mindfulness-Based Stress Reduction/通称MBSR)の開発者であるマサチューセッツ大学メディカルセンターのJon Kabat-Zinn博士は、マインドフルネスをこんな風に表現しています。

Mindfulness means being awake.
It means knowing what you are doing.

マインドフルネスとは目覚めていること。
自分がやっていることをそれとわかってやっている状態である。

マインドフルでない時、つまり、意識が思考の世界にどっぷりはまり込み、あれこれと当てもなく考え事をしている時、私たちは自分の言動に無自覚になりやすくなります。そしてこの「心ここにあらず」状態が続くと実は色々な不具合が起こるのです。

今回のブログではそういった不具合のいくつかをご紹介すると共に、マインドフルネスを使った解決策もお伝えしようと思います。

不具合1.自分の心身との接点が失われる

意識が自分の頭の中に留まり続け、今ここにある自分の身体に意識を向ける時間が減れば減るほど、自分の身体の状態を把握することが難しくなっていきます。今自分はお腹が空いているのか、本当に食べたいものは何か、どの位疲れているのか、身体のどこかに違和感や不快感があるのか、そんなことさえ、よくわからなくなってきます。

だから、気がつくと身体が冷え切っていたとか、朝から何も飲んでいなかったとか、ものすごくお手洗いを我慢していたということが起こるのです。自分の身体の声が聞こえなくなれば、本来なら症状に先手を打ったり、軽症のうちに処置することができたはずの体調不良を放置する結果にもなりかねません。

これは自分の感情においても同じこと。自分の気持ちにアクセスする機会が減れば減るほど、自分の感情から疎遠になっていきますので、今自分が感じている
怒りや悲しみ、落胆といった、寄り添いや共感が必要な心の状態を放置しがちになります。そして結果的に、他愛ないことで鬱積した感情が爆発したり、深い抑うつ状態になったりしてしまうのです。

ですので、できるだけ頻繁に、目を閉じて呼吸に意識を向け、肺や胸が動いていることを意識したり、身体の中を柔らかい光で照らすように違和感や不快な身体感覚を捜してみてください。そして違和感・不快感を感じたなら、しっかりと対処すること。必要があれば医者の診断を受けるなど、行動に移してください。

また、辛い出来事で心が波立つ時、心がキュッと締め付けられるような時は、今自分はどんな感情を感じているのか、ちょっと立ち止まって確認してみましょう。そしてその感情に名前をつけてあげてください。

あ、これは怒りだな
あ、これは寂しさだな

という感じで、その感情にたいしてリスペクトと共感を示しながら、感情を名前で呼びます。これをするだけでも感情の波立ちが弱まり、心がグンと軽くなります。

不具合2.自分が思考を反芻していることに気づけない

無自覚な状態に慣れていくと、自分が思考にドップリはまり、空想の世界に生きていることさえ気づかなくなってきます。

頭の中で繰り返し嫌いな人をけなしている自分、子供の将来を嘆いている自分、自分にダメ出しをしている自分に気づくことができず、自分の思考で苦しい感情を煽り、自分を追い詰め、いじめるというとても悲しい状態になるのです。

嫌いな人は今ここにいないのに、子供の将来はまだ真っ白な画用紙なのに、自分には良いところもあるのに、頭の中の空想を現実と思い込み、その中で自分を苦しめるーこの状態をマインドフルネス・ストレス低減法では「自分で内的ストレス要因を作り出し、自らストレスをかけている状態」と捉えます。つらい状況の中で更に自分をつらくさせているのは、自分自身であることが実はとても多いのです。

この問題に対しては思考に気づく練習が必要です。

自分が思考の網に絡み取られていることに気づいた時点で構わないので、今ここの自分の身体感覚や聞こえてくる音や香りなど、現実世界で起きていることに
意識を向けなおします。そして

ああ、今自分は
頭の中の想像の世界にいたな

今ここでは
想像したことは起きていないな

と自覚しなおしてみて下さい。

想像の世界で自分を追い詰めたり責めたりする時間が少し減るだけで、心はとっても楽になります。

不具合3.目の前の幸せをスルーする

あなたは、携帯を見ながら「無自覚」に飲んだコーヒーの味や香りを思い出すことはできますか?明日のことを思い煩いながら入ったお風呂の湯気の温かさ、シャンプーの香りや泡立ちを追体験できますか?おそらく、できないと思います。

本来なら、あなたに素敵な香りや味、喜ばしい感触を与えてくれる飲み物や日常の出来事も、あなたが「無自覚」でいる限り、あなたを満たすことはできません。
あなたが誰かに言われた一言に腹を立て、何度もその言葉を頭の中で反芻している間にも、パン屋さんからはいい香りがして、子供たちが楽しそうにあなたの横を通り過ぎ、目の前には真っ赤な夕焼けが広がっています。それらはあなたがそれを「自覚」して初めて、あなたの前に生き生きと姿を現します。

もしもあなたが、「自分はそこそこ恵まれた生活をしているのに、なぜか満たされない」と感じているなら、日常生活の中にちりばめられた小さな幸せに無自覚だからかも知れません。

ですので、ぜひあなたの五感を使い、日常の一コマ一コマを味わってみて下さい。そして、味わうためには「味わう時間」を取る必要があります。時間と言ってもほんの数秒で充分。いい香りがしてきたら思い切りその香りを「嗅いで」みる。子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきたら、ほんの一瞬でいいので「聴いて」みる。コーヒーの一口が美味しいと感じるのであれば、一瞬目を閉じてその苦みを「感じて」みる。そんな小さな行動の積み重ねで、あなたの日常はとてもカラフルになります。

如何でしたか?「無自覚に生きる」って、自分から幸せを減らしているようなものだと思いませんか?できる範囲で構わないので、意識を今ここに向け、自分の言動を自覚する練習をしてみて下さい。やればやるほど、「生きている幸せ」を感じられるようになりますよ。