自分に優しくするとつらくなる?「バックドラフト」とは何か

私はこのブログ、メルマガ、インスタグラムなどを通して、セルフ・コンパッションの大切さ、その手法や効果についてお伝えしています。

セルフ・コンパッションとは、簡単に言うと「苦しんでいる自分に共感・理解・優しさを贈り、自分を癒し、勇気づけること」ですが、自分に優しさを向け始めると、むしろ悲しみが沸き上がってきたり、不快な身体感覚が出てくるといった、「一時的な悪化体験」をすることがあります。

この現象を「バックドラフト」と呼びます。後述の通り、この現象自体は悪いことではないものの、ネガティブな体験として受け止められるため、セルフ・コンパッションの実践自体に疑問や恐れを感じ、実践を躊躇される方もいます。今回はこの「バックドラフト」とは何か、そしてそれが起きた時の対応方法についてお話しようと思います。

バックドラフトって何?

バックドラフトという言葉は、消防用語です。燃えている建物の中で、密閉された部屋があったとしましょう。燃えている中で密閉されているわけですから、室内の酸素はだんだんと少なくなっていきますね。それに従って炎も小さくなります。そこで消火活動をしようと扉を全開にすると、何が起こるでしょうか?新鮮な空気(酸素)が一気に供給され、小さくなっていた炎が爆発するように大きくなり、扉を通して噴き出してくるのです。ですので、消防隊の方は扉を少しずつ、少しずつ開け、爆発的な炎が起きないように消火活動をしていきます。

これと似たようなことが、セルフ・コンパッションの実践を通して、自分の心が開いた時に起こります。

私たちの心の中には沢山の傷があります。自覚しているものもあれば、自覚できていないものもありますし、自分としては「大したことのない傷」と思っていたものが、意外に深い傷だったりもします。そんな傷を持っている私たちですが、日常生活を送るため、このような心の傷から生まれる痛みを押し殺していることがとても多いのです。

このような状態の中、自分に対して優しさを向け、「自分は愛されるに値する存在なのだ、悲しい時は泣いていいのだ、自分は自分のままでいいのだ…」と感じられるようになると、心が開き、愛が流れ込みます。そしてその結果、痛みが溢れてきます。

自分を大切にすると、大切にされなかった思い出がよみがえってきます。自分を抱きしめてみれば、抱きしめられることが無かった過去が余計につらいものに感じられるのです。光を知ることで、闇の暗さを改めて知る、そんな感じですね。凍ってかじかんでいた手を、お湯の中にいれた時、その温かさが痛みとして感じられることってありますよね。それに似ているかと思います。

この現象は決して悪いことではなく、心が開き、癒しのプロセスが始まった印です。バックドラフトという現象を知り、対処方法が分かっていれば、落ち着いて向き合うことができますので、心配は要りません。

バックドラフトってどんな感じになるの?

バックドラフトはいろいろな形で表れます。メンタルな部分では自己批判、自己卑下(「こんな私は最低だ」「私は落ちこぼれだ」など)の思考、恥ずかしさや悲しみ、恐れ、怒りなどの感情として出てくることが多いです。また身体面では痛みや心拍数の上昇など、行動としては人との接点を避けたくなる(ひとりになりたくなる)、無感動になる、攻撃的になるという形で表れたりします。

ここで、私自身のバックドラフト体験をご紹介しますね。

マインドフル・セルフ・コンパッションの講師をしている私ですが、バックドラフトは何回か体験しています。一番強いバックドラフトは、私がセルフ・コンパッション講師養成講座の合宿に参加している時に起きました。マインドフル・セルフ・コンパッションの8週間コースをシュミレーションしていく中で、あるエクササイズを実践していた時、突然「自分はなんてダメな母親だったんだろう」という強烈な罪悪感がでてきました。その日はちょうど、娘の18歳の誕生日(ドイツでは成人した日)だったのですが、そんなタイミングもあったのでしょう、もう(法律上も)子供ではなくなった娘に対しての申し訳なさで涙が後から後から出てきました。頭の中は「子供時代にもっと優しくしてあげればよかった。育児はやり直せない。もう取り返しがつかない。申し訳ない」という思考が渦巻き、どうやっても涙が止まりません。

泣き出した私に気づいた先生の一人が、私をセミナールームから外に連れ出してくれて、お庭のベンチに二人で腰掛けました。泣きじゃくりながらも、先生に私の気持ち(強い罪悪感)を説明していたら、だんだんと心が落ち着いてきました。先生に「辛かったら、今日の午後はひとりで過ごしてもいいわよ。ゆっくりしてね。こんな時こそ、セルフ・コンパッションよ。いい練習ね!」と言われ、その日の午後は湖の見える草原に座って過ごしました。空を見たり、鳥の声を聴いたり、タンポポで蜜を集めるミツバチを見たりしているうちに、「そうはいっても、今の娘は幸せなのだ。過去の私は、確かに失敗も沢山してきたけれど、私という母親だったからこそ、娘は今の娘になれたのだ。娘なりに学んだことがあったのだ。それでいいんだ」と思えるようになりました。それ以降、娘に対する強い罪悪感は一切感じなくなりました。

バックドラフトが起きたらどうするの?

バックドラフトは癒しのプロセスの一部なので、怖がる必要はありません。自分の中で起きている爆発は、実は綺麗な花火のようなものだ、と考えてもいいくらいです。まずは慌てず、下記の要領で対応してみましょう。

1.足の裏を感じたり、自分に優しく触れるなどして、その症状が自然に消えていくか見守る
どんな身体感覚も、心のお天気も、一時的なもの。慌てず、ジタバタせず、穏やかに待っていれば落ち着いてくるので、少し待ってみて下さい。

2.無理に心をいじらない、瞑想実践などから離れる
バックドラフトが起きている時は、「心の深掘り」は逆効果になることもあります。瞑想実践をされている方は、瞑想から一時的に離れるのもおすすめです。身体を動かしたり、ゆっくりお風呂に入るなど、少しでも心と身体が楽になる「行動」を心がけてみましょう。

3.それでもバックドラフトが消えない、あるいは心が圧倒させる場合は:

A)まずはバックドラフトが起きていると認知する
「あ、バックドラフトだ」とバックドラフトが起きていることを自覚します。ここで大切なのは「バックドラフトはダメ、良くない」とダメ出しをしないこと。できるだけ優しい気持ちで、「今自分に起きていることはこれなんだ」と言う感じで、ありのままに、事実として受け止めてみます。

B)自分が感じている一番強い感情を捜し、それを優しい声で確認する
「ああ、これは罪悪感だ」とか「あ、これは強い怒りだな」というように、優しく感情の名前を呼んであげます。これをするだけで、かなり感情の強度が弱まります。

C)その感情を身体感覚として捉え、不快感を感じる部分を和らげる
感情は必ず身体感覚として表れてきます(胃のあたりが重くなるとか、肩が緊張するとか、喉のあたりが苦しくなるとか)。自分の感情を身体感覚でとらえたら、その身体感覚を和らげてみます。その場所に手を当てて擦ってあげるのもいいですし、心拍数が上がっていたら意識的にゆっくり呼吸をしてもいいですね。その身体感覚の不快感に寄り添い、できるだけ楽にしてあげます。

D)意識を向けると楽になるもの・ことに注意を向ける
例えばこんな場所に意識を向けてみましょう:

  • 自分の身体の中で不快感を感じていない場所
  • 自分の身体と何かが接している部分(足の裏、お尻と椅子の接点など)
  • 自分の外(空などの景色、聞こえてくる音)

私のバックドラフト体験を改めてお読みいただけると、「バックドラフトが起きている」ということを認知し、先生に説明することで感情に名前をつけ、その後に自分の外に意識を向けることで対応しているのがお分かりになるかと思います。

冒頭にもお話しましたが、バックドラフトが起きるということは、心の扉が開きはじめたというサインです。痛みを感じられるということは、癒しのタイミングが訪れているということでもあります。決して無理をせず、少しずつ、丁寧に、自分の感情に触れながら、自分に優しさを注ぎ続けてみましょう。

また、このバックドラフトは、セルフ・コンパッションの実践をする人全員に起きるわけではありません。また、起きないからダメ、ということもありませんので、バックドラフト未経験の方もご心配いりません。

重要:過呼吸やパニック、強い不安や感情の揺れを体験される場合は、自己判断による対処を中止し、専門医にご相談ください。