妬みから憧れ、そして行動へ・心の痛みを未来を変える力にする方法
誰かの素敵な活躍を見た瞬間、胸の奥がチクリと痛むことや、「羨ましい」を通り越して、心に苦々しさを感じること、ありますよね。この「妬み」を経験したことがない人は、ほとんどいないと思います。
誰もが知っている「妬み」ですが、これは多くの人にとって扱いづらい感情です。自分の中の器の小ささを突きつけられたように感じたり、感じてはいけない感情だと思い、自己嫌悪を感じてしまったりするからです。
このように扱いにくい感情だからこそ、心理学者たちはこの「妬み」をどう理解すれば人が前へ進めるのかを深く考えてきました。その中でも、アドラー心理学は非常に明快な答えを示しています。
アドラー心理学では、妬みは「劣っている」という感覚(劣勢感)の自然な反応であり、それをどう扱うかによって人生はまったく違う方向へ向かうと考えます。つまり、妬みは決して「悪い感情」ではなく、むしろ自分が進むべき方向を照らす貴重なヒント になりうるものなのです。
今日の記事では、アドラー心理学、セルフコンパッション、マインドフルネスの3つを組み合わせ、「妬み」を「憧れ」へ、更に成長へのエネルギ-に変える方法をお伝えします。

目次
妬みが生まれる背景-アドラー心理学の視点から
アドラー心理学の創始者、アルフレッド・アドラーは人間は誰しも「劣勢感」を抱いて生きていると唱えています。「劣等感」と聞くと反射的にネガティブなイメ-ジを持ちがちですが、アドラ-の言う劣勢感は決してネガティブなものではなく、成長と発達を生み出す原動力です。
そして、アドラー心理学の最も重要な概念の一つに優越性の追求(striving for superiority)がありますが、これは「昨日の自分より前へ進もう」とする未来志向の衝動のことです。私たちが「今できていないこと」を「明日は少しでもできるようになろう」と努力するのはこの優越性の追求の力によるものです。そのような観点から「妬み」を解釈すると、妬みはこういった努力の方向性を知らせる大切なサインと捉えることができます。
- 自分はなぜその人を妬むのか?
- その人の何を妬ましいと思うのか?
- 自分が本当はどうなりたいのか?
あなたが感じる「妬み」の背後には、あなたのより良い未来への願いが潜んでいるのです。
妬みが暴走する時ーマインドフルネスが必要な理由
妬みを感じたとき、多くの人の内側では思考の暴走が起こります。
- 私はどうせダメな人間だ
- あの人には到底勝てない
- 追いつけるわけがない
そんな思いが頭の中をうごめき、とても苦しくなります。このような思考を野放しにしておくと、自分がどんどん惨めに感じられてきたり、「あんな奴、失敗すればいい」というような相手の不幸を願う気持ちさえ出てくることもあります。
ですが、ここで苦しみを生んでいるのは、実は「妬み」そのもの”ではなく、妬みをきっかけにあなたが書く頭の中の物語(ストーリー) です。
例えば、「追いつけるわけがない」というのはあなたが今そう感じているだけで、地道な努力を続ける、人の助けを借りる、長い時間をかける等すれば「追いつける可能性もある」かも知れないのです。「どうせダメな人間だ」という判断も、よくよく考えてみれば、自分はある特定の分野に苦手(意識)があるだけで、それを人格否定に使っているだけです。
こういった頭の中の物語がドラマチックであればあるほど苦しみは強く、深くなりますが、今ここで起きていることを落ち着いて「観察」するマインドフルネスの実践は、この暴走を止める働きを持ちます。
妬みを「観察する」とは?
「観察」とは、妬みの感情を「心の中の出来事」として眺めることです。
- いま、胸の奥がざわついているな
- この感覚は妬みだな
…というような内観を通し、妬みの存在そのものを受け入れると、あなたと感情の間にちょっとした「距離」が生まれ、頭の中の物語を紡ぐエネルギーに
ブレ-キがかかります。その瞬間、妬みという感情を感じつつも、それに呑み込まれない余裕が生まれます。
この余裕が生まれることによって、自分の意志で次の言動を選び取ることができるのです。これはまさにアドラーが重視した自己決定性(自分で言動を選ぶ力) の回復です。
妬みに伴う心の痛みを受け入れるーセルフ・コンパッションが必要な理由
妬みを感じたとき、自分を責めてしまう人は沢山います。妬みを感じた時、
- 妬むなんて、私って心が狭いなあ
- こんなこと思うなんて、人として情けないよ…
こんな言葉が頭の中をよぎることも多いものです。
ですが、セルフ・コンパッションの考え方では、この妬みに伴う痛みをまるごと認め、その痛みをやさしさで包み込みます。そして、妬みの感情を抱くということ自体がとても人間らしいことだと捉えます。妬みの気持ちに心が痛む、そんな人間らしさいっぱいの自分に共感と理解、やさしさを向け、感情をなだめ、和らげ、安定させてあげるのです。
感情が安定すれば、あなたが感じている妬みから苦さやトゲトゲしさが消え、純粋な憧れに変わっていきます。
妬みを憧れへ転換する3つのステップ
ここまでの話を踏まえて、実践に落とし込んだプロセスとしてまとめてみます。
STEP 1:妬みを「観察」する(マインドフルネス)
あなたの「妬み」は
身体の中にどんな風に表れていますか?
- 胸がキュッとする
- 胃のあたりが重くなる
- 息が苦しくなる
- 顔が熱くなってくる
などなど、色々な身体反応があると思います。あるいは頭の中に色々な思考が渦巻くこともあるでしょう。それらの反応を押し返したり、否定したりせず、ありのままに感じてみてください。「今自分は妬みをこんな風に体験しているんだ」というように、自分の状態に純粋な好奇心を向けてみましょう。
STEP 2:自分の痛みに寄り添う(セルフ・コンパッション)
そんな状態の自分に対してできるだけ優しく接してみましょう。
- これは人間として
ごく自然な反応だよ - 妬みの気持ちを知らない人なんて
この世にひとりもいないんだよ - 今はつらく感じるよね、
でも私がここにいるから大丈夫よ - 人生は競争じゃないよ
ゆっくりいこうよ
そんな言葉をかけてあげたり自分の身体に愛情深く触れて、自分にやさしさを贈りましょう。これができると妬みのトゲトゲしさが自然と消えていき、憧れのような純粋な気持ちにシフトできます。
STEP 3:あなたの「願い」を言語化し、行動する(アドラ-心理学)
アドラ-は
あなたはあなたの人生を描く画家である
という言葉を残しています。
行動こそが人生を作り、その行動を起こすのはあなたです。ですので、自分を次の行動に促すため、こんな風に自分に問いかけてみましょう。
- 私が本当に何を求めているものは何?
- 私はどんな未来に向かいたいのだろう?
- その未来のために、今の自分にできる最初の一歩は何だろう?
すぐに答えを出す必要はありません。じっくり自分と対話をし、自分が人生において心から大切にしたいものをみつけだしてください。そして「今の自分にできる最初の一歩」がわかったら、実際に行動に移すことも忘れずに!
妬みは人生を止めるものではなく、動かすもの
アドラー心理学は、「人は常に未来に向かって行動する存在だ」と考えます。今日取り上げた「妬み」もまた、未来に向かうためのエネルギーになりうるのです。
そしてその際、
1.マインドフルネスが
感情の暴走を止め、
2.セルフ・コンパッションが心
の痛みをやわらげ、
3.アドラー心理学が
望む未来へ向かう道筋を示します。
この3つが揃えば、あなたは迷うことはありません。方向を示しつつ、進むための心の土台も整います。
妬みは自分が向かいたい方向を映し出す鏡です。その鏡を丁寧に扱うことで、
妬みは憧れへ、
憧れは行動へ、
行動はあなた自身の成長へとつながっていきますよ。


